牙を抜かれた主婦の絵日記

育児マンガとどうしようもない独り言。お気軽にコメントください!

私と父がお魚が怖すぎて遭難しかけた件


母はシュノーケリングが好きだった。


私たち家族はとある、南の美しい海に来ていた。

海の中には様々なお魚がいた。
赤いのや、青いのや、黄色いシマシマのまで。


そのキレイな海で、
私と父はゴムボートにのってくつろいでいた。
たぶん、ほら~下をお魚さんが泳いだよ~
的なことを言いながら。

波に揺られて、ゴムボートは少しずつ陸から離れて行った。

流されて、足のつかない辺りまできた。

だが、心配はしてなかった。私も父も泳げる。砂浜までの距離ならなんてことはない。

ゴムボートはひたすら流されて行く。
砂浜の母と弟の姿がちいさーくなっていった。


そして私たちは気づいた。

私も父もお魚が怖いということ。


マジでマジでお魚が怖い。
至近距離まできてる魚の正体がわかる浅瀬ならまだしも(それですら抵抗あるのに)
この下には一体何千メートルの崖のような深みがあって、
どんなアンコウみたいなそれとかアンコウとか大王イカとかシーラカンスとかアンコウみたいな激グロ生物がいるかわかったもんじゃない。

私は元アメフト部の父が言い出すことを期待した。
さ、そろそろ帰ろうか。と。

父は何も言わなかった。

砂浜に、マッチ棒くらいの大きさの母の姿が見えた。
私と父は大きく頭上で手を降った。

母は振り返した。

私「……」
父「……」

そして私は気づいた。

これ遭難するながれだ。と。


そしてとうとう砂浜は見えなくなった。

父と私は無言のままどんぶらこと流されていった。

私は考えた。そろそろ戻らないと本当にヤバイ。

しかし、戻るためには海に入ってゴムボートを押さないといけない。
それは、オウムガイやアンコウやジョーズと同じ空間に入るということを意味する。いや、下手すると海の中にはまだ未知な生物がいたりする。
それが、宝くじより遥かに稀な確率で偶然私の前に現れたら?
足とか引っ張ってきたりなんかしたら?

私は海に入ることができなかった。

その時、私の視界に、一本の細いロープが飛び込んできた。
お釈迦様の蜘蛛の糸のようにたよりないそのロープは波間で沈んだり浮かんだりしている。

とっさの判断で、私はロープをつかんだ。
もしちょっとでもそのロープから離れていたら、私も父も、捕まえにはいかなかっただろう。
ロープはどこかにつながっているらしい。
ロープを手繰り寄せると、深い海の中からウミヘビみたいに残りのロープが現れてきた。
そしてどこかにひっかかっているらしく、動かない。

どこかはわからないけど、そのロープはどこかにつながっているらしかった。
私は必死にロープを手繰り寄せた。
ゴムボートはロープに沿って移動した。

どこに行くかわからないままたぐりつづける。

そして何もない海の波間を、私たちは移動を続けた。
どれくらい移動しただろうか。
波の向こうに何かが見えた。

近づくと、それは、ロープにそれぞれゴムボートを括り付けた、
裸の男女だった。

私「……」
父「……」
裸の男「……」
裸の女「……」

ヌードのゲージンさんの間を、「あ、すいませーん」的な感じで通り過ぎていく謎の親子。

さらに私はロープを手繰った。たぐり続けた。
あるところでロープは深く海の中に潜って見えなくなった。
一瞬慌てたが、あたりを見回すと、直角に曲がったあたりで、ロープは再び水面に浮かんでいた。
手を伸ばしてそちらのロープをとり、またたぐる。

そして、とうとう砂浜が見えた。

もともとスタートした地点より大きく横にそれて上陸した私と父は、
なんとか呑気に砂遊びしていた母と弟の元に帰り着いたのであった。


いまだにお魚と泳ぐのはちょっと苦手だ。
だけど、サンマの頭を落とせるようになったし、アジを3枚におろせるようにもなった。
決してサンマを捌きながら「こないだでっかくて真っ赤でキレイなラジノリンクスちゃんいたな」とか海老の殻むきながら「コガネムシの幼虫にそっくり」とかあああもう無理。

やっぱり魚はムリ。