ふと思い出した、トイレ部長の話をしたい。
ある会社に転職して間もなく、私はトイレ部長と、もちろんトイレで出会った。私はトイレ部長を見た瞬間から最大限に警戒した。
私の前職での経験からすると、彼女のように茶色い毛を三段巻きし、
輪郭が描けるほどのチークを塗りなおすためにトイレに陣取っている人は100%(3/3)の確率で
徒党を組んで若い女性社員に嫌がらせをしていたからだった。
「はじめまして、私トイレ部長。このトイレを使う人はみんなトイレ部になるの。」
そう言われ、私は思った。
「あ〜派閥があるのか」…と。
しかしそうではなかった。トイレ部はただただ会社にいる折々にトイレにたむろして楽しく会話する緩やかなものだったのだ。
トイレ部長は、時には
「ねえ、ちくびの話してたら男子トイレまで聞こえてたらしくて怒られたんだけど!?」と愚痴を言い、
時には
「ちょっとそのトイレ入るのやめてーーーーっ!さっきまで私が入っててまだくちゃいのーーーーっ!」とほかの女性たちをしきり、
時には
「こまねち!」とこまねちをしたりして
トイレを支配していた。
トイレ部長は時に私に「長いものには巻かれるのよ、ぐーるぐるに巻かれるのよ」と、人生の大切なことを教えてくれ、
私が「仕事がんばりたい」などと語れば「私とは正反対だけどそういう女性の生き方私はアリだと思う!」と励ましてくれた。
彼女が仕事をやめるとき、ささやかながらプレゼントを渡した彼女は心底うれしそうな顔をしてくれ、
「これからの連絡先」と言って名刺を渡してくれた。
そこには「趣味:女装」と書かれていた。
これまで出会った中でもっともイイ女のうちの1人だったと思う。